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もうすぐ三橋は行ってしまう。俺は畠達に先に行っておいてくれ、と告げて三橋の後を追いかけた。のろのろとやけに遅い足取りで歩いていた三橋は、すぐに見つけることが出来た。あの気の強そうな捕手は先に行ってしまったのか、姿は見えない。これは好都合だ、とばかりに俺は三橋の名前を呼んだ。びくり、と大げさに三橋の肩が揺れる。
昔はこんな風じゃなかったのに。
脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。廉、と名を呼べば零れそうな笑みを浮かべながら修ちゃん?と振り返ってくれたのに。いつのまにか名前では呼ばなくなり、話す回数も減り、ついには学校まで離れてしまった。

「か、叶く ん?ど どうした の……?」

振り返った三橋の顔には、笑顔などひとかけらもなかった。驚愕と少しの怯え、そして疲労の色が見える。そのことに今更ながらに呆然としていると、三橋は不安そうに地面を見据えた。まだ、目は合わない。

「お前に、言っておきたい事があったんだ」
「いって、おきた い 事?」
「そう。三橋、お前は俺のライバルだからな!」

三橋の両肩を掴んで、告げると顔を上げた三橋と目が合った。その瞳には困惑の色が浮かんでいる。らいばる、と三橋は舌っ足らずの口調で呟いた。何が何だか分かっていなさそうだ。三橋の返答を待っていると、その瞳からじわりと涙が浮かぶ。

「ち、違う よ」
「は?」

三橋の予想外の返答に、俺は思わず手の力を込めた。三橋の顔が歪んで、俺は慌てて肩から手を離す。その間に、三橋は声を振り絞って、言葉を発した。

「叶君は 俺の、憧れの 投手なん だ!」
「……!っ俺だって、お前の事、」

続けようとした言葉は、第三者の声によって遮られた。「三橋、もう出発すっぞー、早く乗れ!」「あ あべ君!」
くるり、と三橋は俺に背を向けて離れていく。言わないと、言わなければ。

「俺だって、お前に憧れてる!だから、俺は!」
(お前とライバルになりたいのに!)

三橋はそれさえ許してくれないのだろうか。

三橋の姿は段々と離れていく。声が届いているかどうかは分からなかった。三橋の反応がないので、届いていないのかも知れない。





私的イメージの三橋と叶
三橋→叶 憧れの投手、幼なじみ
叶→三橋 ライバル、幼なじみ
な認識だと思う。
叶も三橋を尊敬していて、勝ちたいと思ってる。だからライバル。
でも、三橋は叶には絶対叶わないと思っていていつまでも憧れの投手のまま。微妙なすれ違いな幼なじみだと思います。
中学時代は叶は三橋と仲良くしたいけど、エースをしている三橋への劣等感とか敵わない、と思ったりとか色々叶も大変だったんだと思います。
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