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「騎士就任おめでとう、ルルーシュ」
「お前こそ。まさか二人揃って主が決まるなんてな」

ふわり、と柔らかな風が二人の間を通り抜けた。見上げた先には巨大なブリタニア宮殿。これから二人はあの場所にある皇女の騎士として働くことになるのだ。軍学校を無事卒業したスザクとルルーシュは、他の卒業生の誰よりも早く就職先が決定していた。スザクは在学中に偶然知り合ったユーフェミア皇女の、ルルーシュは繋がりはよく分からないがナナリー皇女の騎士。忙しくなるな、とルルーシュは宮殿を見ながら独り言のように呟いた。その音は風に運ばれてスザクにも届いたけれど、スザクは言葉を返すことはなかった。言いたいことはいっぱいあった。だけど、これからの生活はルルーシュの言う通り、とても多忙なものとなるだろう。世界の三分の一を治めるブリタニアの中心とも言うべき皇族の騎士なのだ。しかも筆頭騎士。つまり、二人の皇女にとってスザクとルルーシュは初めての騎士となる。降りかかる心労はどれくらいだろうか。想像できない。だからルルーシュの負担になりそうな事は、今は言わない。

「ねぇ、ルルーシュ」
「なんだ」
「落ち着いたら、言いたいことがあるんだ」
「今言えばいいじゃないか」
「うん……でも、やっぱり生活に余裕が出来てから」

ルルーシュは不思議そうに首を傾げた。スザクは曖昧に笑って言葉を濁す。今はまだこの関係で満足なのだから。




―――あの日から、もう一年が経つ。


「ユーフェミア様、ナナリー様がお見えになりました」
「ありがとうスザク。お茶の用意をお願いしていいかしら」
「勿論です」


スザクは使用人が用意した紅茶をテーブルに運ぶ。ありがとうございます、と柔らかな声が返ってきてスザクは自然と微笑んだ。車いすの少女―――ナナリーの後ろにはルルーシュが控えていた。
騎士も交えた奇妙なお茶会が開かれることになってからずいぶんと長い月日が経った。しかし、その回数は最初の頃に比べて格段と少なくなっている。最後に会ったのは二ヶ月も前だった。

「元気そうでよかったわ」
「はい。ルルーシュが守ってくれていますから」

にこり、とナナリーは優しく微笑む。その言葉にルルーシュは小さく首を振って真っ白なナナリーの手に己のそれを重ねた。そしてナナリーの何も映さない瞳を見ながら、言葉を紡ぐ。

「当たり前の事だ。俺は絶対にナナリーを守る、何があっても」
「ありがとうございます」

ナナリーに笑いかけるルルーシュの瞳は酷く柔らかい。その光景にぷすり、とスザクの心に針を突き刺す。嫌な感じだ。こんなに美しい光景なのに、こう思ってしまう自分はなんて醜いのだろうとスザクは自己嫌悪に陥る。四人しかいないこの空間では、敬語も身分もたいして関係がなかった。スザクとルルーシュは友達として話し、ユーフェミアとナナリーはただの少女だ。そこに主従関係は存在しない。さすがにスザクはナナリーには完全に砕けて接することが出来ないが(自分の主人ではないのだから)ルルーシュはというと、完全に打ち解けたのかユーフェミアともナナリーともただの騎士という関係を超えたような態度で接する。胸がもやもやした。ルルーシュの気安げな態度も謎だ。なにかあるのかと思い関係を聞いてみても「どうして?」という質問の意味が分からないという態度を返されるだけだった。当たり前か、とスザクは思う。スザクもルルーシュもなんの変哲もない一般家庭の出なのだから、皇族と関係あるはずがない。

「最近は忙しいわね」
「そうなんです、兄さまの付き添いで色々な所に行っているから……」
「さすが交渉の女神、ね」
「そんな、偶然ですよ」

ナナリーが頬を染める。交渉の女神とはナナリーの別称だ。実現不可能だと言われ続けていた交渉を、シュナイゼルがたまたまナナリーを連れていった時のことだ。簡単に交渉は成立した。それが何度も続き、ナナリーの名前はメディアを中心に広がっていく。国民からの人気と時期皇帝と噂されるシュナイゼルの後盾。母親のマリアンヌ皇妃が亡くなってから辛い立場に立たされていたナナリーだが、今ではそんな時代があったのか疑わしい程地位は安定していた。

「明日も行くんでしょう?」
「そうなんです、中華連邦の方に」
「それってルルーシュも行くの?」

思わず口に出した疑問にルルーシュは微かに眉を顰めた。当たり前だろう、と返されてスザクは僅かに気持ちが沈んだ。

「俺は`ナナリー様`の騎士なんだからな」
「ユフィ姉様の予定は?」

ナナリーが無邪気に問いかけると、ユーフェミアの表情に影がさした。しかしナナリーは目が見えないので気が付かない。その表情を振り払うようにユーフェミアは明るい声を出した。

「私はしばらくは何も。たまにはどこかに出かけたいわ。お土産待ってるわね、ナナリー」
「分かりました」



さくさくと芝生を踏みしめて、広い庭園をスザクとルルーシュは回る。皇女同士話すこともあるだろう、と騎士の二人は席を外したのだ。しばらく会わないうちにルルーシュの表情はやけに大人びていた。ナナリーに付き添って各国の首脳達と会っているから当然なのかも知れない。

「スザク?」

呼ばれてやっと自分がルルーシュを凝視していた事に気が付く。スザクは誤魔化すように言葉を紡いだ。

「ちょっと太った、かなって」
「な……!」

ルルーシュの頬がカッ、と一瞬で赤くなる。冗談だよ、と告げようと思うより先にルルーシュが口を開いた。

「だからあれだけピザは嫌だと……」
「ぴざ?」
「ああ。知り合いにピザ馬鹿がいてな、よく付き合わされるんだ。あいつは太らないからいいものの、俺は……」

そこで不自然に言葉が途切れた。同時にぼこ、と間抜けな音が辺りに響く。ぐらりとルルーシュの体が傾いて、慌ててスザクはそれを支える。何かが物陰から飛んできたのだ。刺客か、とスザクは飛んできたものに目を向けると可愛らしい瞳と目があった。

「何、これ」

黄色い体に気の抜けるような顔。頭に可愛らしく帽子を被った細長い物体、人形?直撃を受けてふらついていたルルーシュはそれを見て忌々しげに顔を歪めた。というか直撃って騎士としてどうかと。スザクは心の片隅で呟いた。

「あいつ……よくも」
「誰?」

ルルーシュは飛んできた人形を地面に叩き付けた。スザクの疑問は聞こえていない。人形がふにゃり、と造形を変える。可愛いのに。あんなに柔らかそうなのに、固そうな良い音がしたのは何故だろうとスザクは少し悩んだ。すると、どこからともなく気配を感じさせずにその声は降ってきた。

「おい、ルルーシュ。チーズ君に何をするんだ」



続かないパラレル。あの、スザクが女の子に嫉妬している話と皇族バレを盛大にやりたかったと思われる。ルルユフィナナもルルが皇族って教えてやれよ!って話ですね。巻き込みたくなかったんでしょうが。ルルはギアス持ってます。シュナさまとかそういうからくり。

スザクはゼロの正体知らない。ギアス暴走してる。虐殺はあった。そんなパラレル空間。






「ルル!」

ばたん、と生徒会室の扉が勢いよく開けられた。物思いに耽っていたルルーシュは一瞬、反応が遅れた。ルルーシュのことを愛称で呼んでいる人物は一人しかいない。その人物も先日のとある事件で愛称を呼ぶことはなくなってしまった。じゃあ、誰だ。目の前で目を見開いて驚いているシャーリーを一瞥して、ルルーシュは声の方向へと振り返った。分かっていた。分かっていたから、現実を見たくなかっただけなのかも知れない。声はとてもよく聞いたことがあるものだった。


「マ、」
「お前はっ……!」


ルルーシュの声はスザクによって掻き消される。スザクは咄嗟にイスから立ち上がって臨戦態勢を整えた。その様子をミレイ達は不思議そうな顔をして眺める。ルルーシュもイスから立ち上がり、今にも飛びかかりそうな様子のスザクを手で制した。ルルーシュを見据えてくる目は赤い。

「久しぶり、ルル」
「……マオ、なんで」

後の言葉は思い浮かびすぎて、続かなかった。マオは確かにCCが殺した筈だ。それなのに、傷一つ無く元気な様子でルルーシュの前に立っている。ぎり、とルルーシュはマオの事を睨み付けた。目的が分からないと動くことが出来ない。いきなり鋭くなった雰囲気にリヴァルはなにあれ、と小声で呟く。答える者はいない。

「知りたい?」

マオは口の端をつり上げながら、ルルーシュとの距離を詰める。沈黙の中、マオの足跡だけが生徒会室に響いた。ルルーシュの前に立つと、マオは子供のような笑顔を浮かべた。

「やっぱり、ルルの声は聞こえない」
「……どういう事だ」
「暴走、したんでしょ?」

断定するようなマオの物言いに、ルルーシュの思考が停止する。にこり、と笑いながら左目の眼帯に手を伸ばすマオにルルーシュは反応できなかった。あっという間に眼帯はマオの手の中に握り込まれ、左目が露わになった。制御できなくなった赤い鳥がマオを映す。左目が人影を捉えてびくり、と反射的に体が震えた。

「―――っ!返せ!」
「そんなに怒らないでよ。返すから、はい」

左目を片手で覆いながら、ルルーシュはマオの手から眼帯を受け取った。心臓の高鳴りが収まらない。心臓がうるさすぎて気持ち悪かった。なんとか冷静になろうと、眼帯を付け直すが震えが止まらない。怖い。この力が恐ろしかった。一瞬で大勢の命を奪えるこの力が。様子のおかしいルルーシュを見て、スザクは腕に力を入れるがすぐに気が付いたらしいルルーシュに制される。その光景にマオは笑みを深くした。

「次は右目も赤くなるよ」
「……なんでそんな事が分かる」
「僕もそうだったから。よく分かるよ。初めは制御が聞かなくなる。そしてその次は両目の浸食。ねぇ、ルル。僕って本当は目の色、紫だったんだよ。ルルと同じ。今じゃ誰も信じてくれないけどね」

マオの言葉にミレイ達はその瞳を見据えた。サングラスに隠れてはいるが、真っ赤なのは遠目からでも分かった。


「ルルの疑問に答えてあげる。僕は死ねないんだ。これはもう僕の体じゃないからね。力に飲み込まれたら、これはもうその力のものなんだ。僕が勝手に死ぬ事は許されない。こいつが飽きるまで、僕は付き合わなきゃいけないみたいなんだ」

マオは自分の瞳を指さしながら、言葉を紡ぐ。


「ルルのも、暴走が始まったならあっという間だよ。両目が浸食されたら、次はルルの場合は有効回数かな。そして、最終的には何もいらない。命令するだけで」
「―――やめろ!」
「……ルルーシュ?」

とうとう震えを隠せなくなったルルーシュにスザクはいたわるような視線を向けた。そして、マオには敵意を込めた視線を。マオはそんな姿に笑いつつも、ルルーシュに言葉を発した。


「やめないよ。怖い?だったら、僕達三人でオーストラリアの僕の家に住まない?」
「なに、を」

話の展開に付いていけないようにルルーシュはマオを訝しげに見つめた。マオの顔にふざけた色はなかった。本気らしい。

「言ったよね。ルルの声、聞こえないって。暴走した力は同じ暴走した力を持っている人間には通じないんだ。また、人を傷付ける前に僕達と行こう?」
「……っ駄目だ。ナナリーは」
「目を見るなんて条件、とっくに外れる。また、妹を傷付ける前に行こう」

また、を強調するとおもしろいぐらいルルーシュの体が揺れた。


よく分からない話。マオマオに会いたい。
マオもギアスの進化をずっと自分で見てきたんだから、大体の進化の仕方は分かる=進化がいつか大体分かる=教えてやるから一緒にいよう、みたいな話が書きたかったみたい。
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