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スザクはルル=ゼロをしらない。でも虐殺は不思議な力で〜ぐらいは知ってる。本編パラレル。






こつん、と一人の足音だけがその場に響いた。近くでは黒の騎士団とブリタニア軍の戦闘が行われているというのに、この場は異様に静かだった。こつこつ、とスザクが距離を詰めてもゼロは逃げようとはしなかった。ただ、スザクの向けている銃口を見据えている。ゼロは一人だった。生身ではスザクのほうが圧倒的に有利だろう。スザク自身も己に体力で敵う物はいないと自負している。追いつめた。逃げることは不可能だ。黒の騎士団は復讐に燃えるコーネリアが怒濤の勢いで追いつめている。
ユフィの仇がやっと取れる。
スザクはゆっくりと銃口をゼロの心臓へと向けた。外さないだろう。スザクは訓練をうけた軍人だ。二人の間に言葉はない。ゼロは観念したかのように何も言わないし、スザクも言葉など交わす気はなかった。引き金に手をかける。ユフィ、やっと、


「スザク!駄目です!止めてくださいー!」


あれ。スザクは聞こえるはずがない声を聞いて、引き金にかけていた指を止めた。その声はスザクの行動を止めるには十分すぎた。なんたって、今のスザクの行動の全てだ。幻覚?とスザクは首を傾げる。本来なら聞こえるはずのない声。だって、彼女はスザクが看取った。葬式にも出た。その筈だ。ふと、ゼロも不思議そうに辺りを見回しているのが見える。ゼロにも聞こえた?誰かのイタズラだろうか。こんな時に。ユフィ、と聞こえた声の主の名前を呟くと、なんと返事が返っていた。

「なんですか、スザク?」





悪魔パラダイス





「えええええ!?ゆ、ユフィ!?」
「はい。ユーフェミアです。もしかして私の事が見えるんですか?」
「見えるって、え?え、本当に、ユフィ?」
「落ち着いてくださいスザク。はい深呼吸」

目の前に突然現れたピンク色の少女の手振りに合わせて、スザクはすーはー、と深呼吸をした。しかし心臓の鼓動は収まらない。どきどき。有り得ない事態に心臓が飛び出しそうだ。だって、ユーフェミアは死んだ。しかし、スザクの目の前にいる少女は元気に微笑んでいる。生前のユーフェミアとなにも変わらない。

「……、ユフィ?」
「まあ!ゼロ、あなたも私の事が見えるのですか?」

仮面越しのくぐもった声が親しげな響きでユーフェミアの名を呼んだ。それにスザクは引っ掛かるものを感じたが(お前が殺したのに!)スザクと同じ様な困惑を感じて少し安堵する。同じ様な状況に陥っている他者がいるということは、スザクの混乱を多少は和らげてくれた。ゼロの方に顔を向けたユーフェミアの後姿を、スザクはぼんやりと眺めた。何がなんだか。と、ユーフェミアの背中に見覚えのないものが付いているのにスザクは気が付いた。


「黒い、羽?」

スザクの声はユーフェミアとゼロにも届いたようで、二人の視線がほぼ同時にスザクに向けられる。ゼロの表情は伺い知れないがユーフェミアはにこり、と微笑んだ。

「スザク、ゼロを殺すのは止めてください。テロリストの皆さんもです。人を、殺さないでください」
「え?」
「ゼロもです」

今度はユーフェミアはスザクの方に顔を向けたので、ゼロからはユーフェミアの背中の羽がよく見えた。ユーフェミアの動きとともにぷるぷる、と黒い羽は意志を持ったように動いていた。連想されるのは悪魔だ。ユーフェミアには酷く不釣り合いな。どちらかといえば、白い羽だろう。天使のような。余計な所に思考が飛ぶ辺り、ゼロは混乱していた。自分が殺したはずの、血の繋がった妹が現れたら誰だって動揺する。

「私は、悪魔になりました」
「……え」

スザクは先程から驚くことしかできない。下手につっこみも入れられないので、黙って聞いておく。それに、ユーフェミアが目の前にいる。喋れば声が震えてしまいそうだった。ユーフェミアの笑顔は変わりなく、温かいままだ。


「天国には受け入れられないと言われてしまって……。でも、情状酌量の余地有りで地獄に落とすのも忍びないって神様が仰って。だから、天国に行くために条件を提示されたんです」
「条件とは、」

常識はずれなユーフェミアの言葉にゼロは言葉も出ないようだ。スザクも同じ様なものだが、ユーフェミアが生きて動いて黒い羽なんか付けてれば信じるしかないだろう。

「人が死ぬのを未然に防ぐことです。私の生前の立場を神様は知っていたみたいです。でも、お姉さまには私の姿は見えなくて途方に暮れてたら……二人が気が付いてくれてよかった!」
「でも、ユフィ……ゼロは君を殺したんだ。僕は、彼を許す事なんて、」

話はわかったが、それとゼロを殺すこととは別だ、とスザクは思う。ユーフェミアだって憎くない筈がないのに。ユーフェミアはそんなスザクの顔に手をあてた。実際は触れることができないので、仕草だけだが。

「スザク、私は誰も恨んではいません。あれは事故だった。ああしてくれなければ、私は日本人を殺し続けたでしょう。私は、幸せだった。いいんです。私のためにスザク、あなたが苦しむ必要なんてないんです」

ユーフェミアは悪魔だというのに、天使のようにやさしく微笑んだ。そして、ゼロの方を振り返る。

「ゼロ、あなたは私のために泣いてくれた。嬉しかった。もう、私の事で苦しまないで」

ユフィ、とゼロが力無く呟いた。その代わり、とユーフェミアはそんなゼロに提案をするように声を上げる。

「人を死なせないでください。私からのお願いです」
「……分かった。努力する」

ゼロの答えにスザクが瞠目する。テロリストなんてやっている限り、そんな事は不可能ではないのだろうが。しかし、ゼロの言葉は思いの外しっかりしていた。

「しかし、いくらこちらが努力してもブリタニア側を抑えないと不可能だ」
「大丈夫です。そのためにスザクが居るんですから!」


え、とスザク抜きで勝手に進んでいく話にスザクは慌てた。ええと、何がなんだか。「おい、ゼロ」突然、第三者の声が辺りに響いた。ライトグリーンの少女がこちらに向かってきている。ゼロを助けに来たのだろうか。身軽な少女は、ゼロの元にかけよりスザクの方を見ると訝しげに眉を顰めた。その様子にスザク以上にユーフェミアが目を丸くする。

「なんだ、あれは」
「見えるんですか!?私が!」

ユーフェミアは嬉しそうだ。その様子に少女は益々表情を険しくする。

「……まあいい。撤退命令を出しておいた。いくぞ」
「待て!」
「スザク!」

スザクが追いかけようと体勢を整えると、ユーフェミアから強い制止の声がかかった。ユフィ、とスザクが問いつめるような声を発するがユーフェミアの瞳は揺るがない。

「駄目です」
「でも、」
「スザク、私はあなたに人殺しをさせたくない」
「……ユフィ」
「あなたは17歳。学校に行くのが一番です。私もこれからスザクに付いていきます」
「はい……ってえ!?」


驚愕するスザクをよそに、ユーフェミアはゼロの方向へ思いっきり手を振った。そして大声で宣言する。

「ゼローー!私はこれからスザクと一緒に学校に行きますからー!」

なんでゼロに宣言するんだろう、とスザクは思ったがもうすべて規格外だ。今更、疑問なんて無意味だろう。意外な適応能力の高さにスザク自身が驚いていた。
叫び終わると、ユーフェミアはスザクを帰るように促した。訳が分からないけれど、ユーフェミアはとても元気だ。今はそれでいいのかもしれない。
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